2型糖尿病の診断基準として用いられる検査の中で、過去1〜2か月間の血糖量の平均的な状態がわかる検査、
「HbA1c」。
名前は知っているけど詳しくは知らないという方が大多数であると思います。ここではまず、是非知って頂きたい事柄を先に、そしてより詳しく知りたい方には追加説明をページ後半部に用意しております。
HbA1c(ヘモグロビンA1c)の数値は、
いわば血糖値の履歴と言っても差し支えないと高木は考えます。血液中の主要成分の一つである
赤血球、その
赤血球に含まれる
糖化してしまったタンパク質(
糖化ヘモグロビン)の量が数値化されたものです。
血糖値が正常な範囲で上下していた血液の中に長く漂っていた
赤血球は、含有する
糖化ヘモグロビンが少なく、逆に高血糖にさらされ続けた
赤血球は、正常なものよりも
多くの糖化ヘモグロビンを含みますので、血糖値の診断の基準として有用な情報となるのです。詳細な説明は後半で。
高血糖の時間が長いほど、HbA1cの値が高くなるのです。HbA1cの値の高さとして、高血糖の歴史が赤血球に刻まれているのです。
そして、ここからがこのページの本題です。前ページで、
高血糖が血管を破壊するという言葉を繰り返し書きましたが、
高血糖がどのような変化を血管に与えるかは、まだ説明していませんでしたので、ここで
HbA1cの件と共に、まとめて書きます。
血液内の糖分(グルコース)は、タンパク質と結合しやすい性質を持っています。タンパク質は人間を含む全ての生命体の主要成分で、血管も主成分はタンパク質、なので血管と糖分は結合しやすいのです。血管に糖分が結合する反応(
糖化反応またはメイラード反応と呼ばれる)は、
血糖値が高いほど多く行われます。その血管の
糖化反応が起きてしまった部分が、
終末糖化産物(AGEs)へと置き換えられる事により、
血管が破壊されるのです。例えてみれば、金属製のパイプラインが内側から腐蝕して、
サビて内側から剥離して、しまいには穴が開いてしまうような様子をイメージすると、わかりやすいと思います。
血管も糖化反応により壊され、
赤血球も
糖化反応によりダメージを与えられているのです。
HbA1cの値は、赤血球が糖からダメージを受けた度合いの値と言って差し支えないと思います。そして、
同じ環境下に置かれていた血管も同様のダメージを被っているという訳です。
血糖値がその正常値を超えた高い状態になっている時点で、血管は蝕まれ、身体は破壊され、
老化が加速しています。
現在進行形で寿命が余分に削られ続けているのですよ。
糖尿病の三大合併症を発症するより前段階において、高血糖が招く悪夢のような事態について。 |
HbA1cの説明をお読み頂いた所で、前ページ、
2型糖尿病論その1で箇条書きに綴った内容について、それぞれ説明したいと思います。
● 高血糖による血管の硬化により、血圧が上がります。
高血糖による血管破壊で、全身全ての血管の壁は脆くなり、そして柔軟性を失っていきます。柔軟性に富んだ血管であれば、血流の強弱をクッションのように和らげて、血管にかかる圧力からの負荷をうまく逃がして、血管を傷つけないようにすることが出来ますが、硬く柔軟性に乏しい血管は、それが出来ません。
血圧が急激に上がった時などに、血管が破れるという危険性が大幅に高まります。
● 脳卒中・心筋梗塞の発症率が高くなります。
皆さんご存知の通り、脳の血管が破れれば・・・、心臓の血管が破れたら・・・、血管が破壊されるのですから、当然ですね。
● 発がん率が高くなります。
統計的に高血糖の人ほど明らかに発がん率が高いという事実から、その根拠を探るべく世界中で様々な研究が進められています。例えばインスリンが多く出される状況が悪性腫瘍を育む仕組み、血管の糖化反応から産生された
AGEs(終末糖化産物)が悪性腫瘍発生に関与する仕組みなど、色々と解明されつつあります。そもそも毛細血管から破壊されていき、組織細部までの血流が不十分になってしまった時点で、
がん細胞の発生しやすい環境が身体各所で整ってしまっています。
● 認知症の発症率が高くなります。
脳血管が破壊されるのですから、脳出血の危険性増大だけでなく、
脳細胞への栄養供給にも確実に悪影響が出ます。また、脳細胞の活動には糖の吸収が不可欠なのですが、インスリンの効果が低下している状態(インスリン抵抗性)が、脳細胞への糖の供給を低下させる事も研究で明らかにされつつあります。また、
AGEs(終末糖化産物)により脳細胞がダメージを受けるという現象も考慮に入れねばなりません。
● ケガが治りにくくなります。
細い血管から破壊され機能を失っていく事から、ケガの部位への栄養供給が低下しますので、ケガの修復スピードが落ちます。それだけではなく、高血糖の状態では、免疫力が低下しますので、傷口からの病原菌感染にも弱くなります。
● 必要な手術を受けれなくなるかもしれません。
血管が脆く、傷が塞がりにくいので、身体にメスを入れる事そのものの危険が、血糖値に問題が無い人と比べて大きくなります。
● 感情のコントロールが難しくなります。
血糖値の乱高下は、感情を乱しますし、食欲の暴走も起きやすくなります。また、脳細胞へのダメージがそのまま悪い方向に影響し、思考力・記憶力の低下も招きます。
● 外見の老化スピードがとても早くなります。
血管の破壊は肌への栄養供給を不十分なものとしてしまいますので、肌の状態はみるみる悪化していきます。とても高価な化粧品を使っても全く補えません。また、肌のコラーゲンに糖が結合し、
AGEs(終末糖化産物)化で肌のシワやたるみ生成を加速させます。
● 骨折しやすくなります。
骨の糖化。骨に糖が結合していくと、強度が大幅に減少し、
容易に骨折が起こるようになってしまいますし、その回復も遅いです。
● 疲労からの回復が遅くなります。
血管が破壊されるのですから、身体隅々までの栄養供給が不十分になりますので、当然疲労回復が遅いです。さらに免疫力が低下するので、カゼなど感染症にかかりやすく、治りも遅いです。
ここで一応ご注意頂きたい点を一つだけ、
AGEs(終末糖化産物)を減らす
サプリメントとか健康食品を探すなんて事、全くお勧めしませんからね。食生活コントロールに勝る安易な手段を求めたがる精神が問題ですよ。
HbA1cの値で、過去1〜2か月間の血糖値がわかる理由。 |
ここは、読み飛ばしても差し支えないと思います。ちょっと、ややこしいです。
HbA1c、その名前の意味ですが、「
糖化ヘモグロビンの分画A1のc」、つまり多種ある
糖化ヘモグロビン=「
ヘモグロビン(赤血球を構成する成分の大部分である血色素)に糖(グルコース)が結合してしまったもの」のうちの
1種の事です。余談ですが
糖化ヘモグロビンの種類には、他にA1a,A1bとかA2、Fなんてのもあったりします。
次に、なぜ一回その場限りの採血で、「
その患者さんの過去1〜2か月間の血糖量の平均的な状態がわかる」のかについて説明します。
HbA1cの数値は採取した血液に含まれる総ヘモグロビン量のうちの、
糖化ヘモグロビンのA1cの含有率が何%なのかを算出したものであります。
赤血球(この構成成分の大部分がヘモグロビン)の寿命はおよそ120日、そして人間の体の中で、毎日ほぼ同じ量の
赤血球が作られ、ほぼ同じ量の
赤血球が寿命を終えて破壊されます。(ケガや疲労などにより、作られる
赤血球量は変動。)
なので、血液中には生後0日・1日・2日・・・・120日と、誕生日の違なる
赤血球が全種類ほぼ同じ割合で存在するので、採取した血液(つまり多量の全日齢層の赤血球達)の中に含まれる
ヘモグロビンA1cの含有率は、どうしても、
作られて間もない若い赤血球から、寿命を全うする寸前の高齢の赤血球まで、全世代のヘモグロビンがほぼ均等に混ざった状態の数値としてだけ観測されるので、
全世代のヘモグロビンをほぼ均等量混ぜた上での糖化ヘモグロビンA1cの量比率が算出される、なので、「およそ過去1〜2か月間の血糖量の平均らしきもの」
しか算出することが出来ない、という事です。
若い
赤血球に含まれる
糖化ヘモグロビンは微量で、寿命近い
赤血球に含まれる
糖化ヘモグロビンは多量なのですが、これは、
赤血球が血液中を漂っている間に、
赤血球の中の
ヘモグロビンが少量づつ血糖と結びつき、
糖化ヘモグロビンに変化していく(
糖化反応・メイラード反応などの呼び名)、つまり血中に漂う時間の長さに比例して、
糖化ヘモグロビンを赤血球内に多く蓄えるということになります。
そして、血中の糖分濃度が高い(高血糖)程、より多くの
糖化ヘモグロビンを
赤血球が蓄えますので、血糖値の高さと高血糖状態の時間の長さ、どちらも多いほど、
糖化ヘモグロビンA1cが多くなる、ということなのです。
採取された血液の、
老い若い含む全ての赤血球のダメージ度合いの平均値が、
HbA1cの値なのです。
次回、
鍼灸師高木の2型糖尿病論その3では、ちょっと小難しい話から離れて、
血糖値の上昇をおだやかにすると喧伝されているぼったくり価格のトクホのお茶についての、
正しい理解と有効な利用の方法、さらに
トクホのお茶と同等の効果のある飲料を格安で自作する方法を、書いていこうと思います。トクホのお茶の、有効性の有無についての議論にも触れます。
●
HbA1cの値は、血糖値の高さと高血糖時間の長さの履歴と言える。
●高血糖による血管の糖化反応が、身体を破壊し続ける。
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